「失敗学の法則」 畑村洋太郎著
「失敗学の法則」 畑村洋太郎著
”失敗学”という言葉は、著者が創った言葉であり、失敗学の第一人者です。
幾つかのキーワードを拾ってみました。
・人間というのは、自分のことを相手のことのようにいう性質を持っている
・すぐれたリーダーほど「いい塩梅」を知っている
・被害最少の原理が身を守る
起きてしまったことをそれ以上に大きくしない
・質的な変化を見落とすな。
・山勘は経験のエッセンス
・すべてのエラーはヒューマンエラーである
必ずどこかに人が関与しており、そこに何かの人にエラーが存在している。
・精神的ショックへの対応を考えろ
・責任追及と原因究明は分けろ
責任追及を伴う事故調査が行われると真の原因が隠される。
裏の法則
・組織のせい、他人のせいにしろ
・隠せる失敗は隠せ
人に被害を与えないもので、隠せ通せるものは隠すことがよい。
公にすることでのマイナスとのバランスを考えると隠す選択肢もある。
日航機ニアミス事故の本当の原因(本より抜粋)
2001年1月31日に起きた。事故の直接原因は、
管制官が羽田発那覇行くの907便と釜山発成田行きの958便の便名を取り違えて両機に指事をだした。
レーダー画面に両機の異常接近を警告するランプが点滅したのを見て、「大変だ!」とパニック状態になった。
958便に降下を指示するつもりが、上昇中の907便に降下の指示をだした。
その後、事態の異変に気づいた教官役の管制官も気が動転して便名を取り違えたため、両機への指示が二転三転、
最終的には、907便が958便との衝突を回避するため管制官の指示に反して急降下した。
そのことで、負傷者を出す事故になった。
事故後、「管制官の未熟さが原因だ」、「急降下させたのは機長の判断ミスだ」といった論調が目立った。
事故の背景には、当時、焼津上空が「空の銀座」と呼ばれるほど運行過密の状態だったからである。
三宅島の噴火と横田や厚木の米軍基地を発着する軍用機によってかなり空域を狭められていたからである。
実は何も指示ださなくても高度が違っていたので衝突はなかったのだが。
警告ランプに反応した管制官を責めることはできない。
どんな優秀な管制官にも見習い期間がある。責任を問うなら、
いつでも事故が起こりうるような空域をそのままにしていた行政や管制官の訓練体制に対して行うべきである。
事故の原因がわかる前に処罰が前提の事情聴取が行われたら誰の口も重くなりますます真相がわからなくなってしまう。
この事故で東京航空交通管制部は、指示を間違えた管制官の名前を世間に明かさなかった。
失敗学の観点からすると、この行為は正しかったと思う。この管制官は将来とてもいい管制官になるのではないか。
”未必の故意には重罰”を
わかりきっている決まりを守らず、社会的に許されない手段で自分の得を得るようなことをしていた人に対して、
気づかないうちに失敗してしまった人よりも、格段に重い罰を与えると言う失敗の法的運用である。
東海村の臨界事故
裏マニュアルが存在していた。作業者は裏マニュアルに従って作業しており、作業者には責任は問えない。
裏マニュアルを作成し、認めた責任者が定められたことを行っていなかった。
作業がマニュアル化すると、確かに効率は上がるが、
技術者はマニュアルに書かれていること以外はできなくなり、次第に想像力や考察力が低くなっていく。
会社は見かけ上は利益が上がって前途洋洋なのに、その中身は技術はどんどん低下して脆弱なものになっていく。
”不作為”による失敗がある。
薬害エイズでは既に米国で問題になり非加熱製剤の使用は禁止されていたのに加熱製剤の認可を直ぐに行わなかった。
かつ、非加熱製剤の製品回収を製薬会社に任せたままにしていた。
BSEでは欧州で問題が既に明確になっていたのに、何のアクションも起こさなかった。
狂牛病に感染した牛が発見されたとき「これだけである。感染した牛は加熱廃棄処理をした」と大臣が発言した。
その後、続いて狂牛病に感染した牛が見つかるとともに、最初の感染した牛は廃棄されず肉骨粉にされていた。
故意でない失敗をした人を責めると、人は失敗を隠すようになる。
失敗から学び、改善をしていく。それが隠されると大きな失敗に繋がる。
そのことを理解できない会社のトップが、大きな失敗を引き起こす背景を醸成している。
失敗をオープンにして、そこから学ぶことで失敗を減らすことができる。