不溶性異物の経年での増加(原薬の出発物質の変更)

注射剤の異物は、製造時に問題がなくても経年で問題になることがあります。
フレークス発生も経年による影響です。
今回のケースは原薬の出発物質を変更したことによる経年での不溶性異物の発生です。

1.不純物パターンの変化
原薬の銘柄追加や製造方法変更時は、不純物のパターンが変化がないかを確認します。
ICHの基準では1日投与量によっても限度が異なりますが、一般には0.1%の新規不純物があるかを確認します。
今回のケースは0.01%の新規不純物があり、それが経年(1年前後)で不溶性異物になっていました。

2.製造時は問題なく、経年で問題に
  0.01%の新規不純物は水に溶けにくい物質でした。
しかし、原薬の量と注射剤の溶液量の関係で、この不純物は溶けていた濃度でした。
ですので、製造時に不溶性異物で問題になることがありませんでした。
ところが、経年でこの不純物が2量体になっていました。
この2量体はさらに水に溶けない物質だったので、2量体が不溶性異物として析出しました。

3.新規不純物と2量体の同定
不純物を同定するにはある程度の量が必要です。
原薬をHPLCで評価すると新規不純物があったので、それを分取して同定しました。それが当初原因と推定しました。
実際の経年で不溶性異物が出ているものから異物を取り出しIRを測定したところ、分取したものと微妙にIRの指紋領域が異なっていました。
そこで、分取したものを再度構造決定したところ、原薬から分取した新規不純物の2量体でした。
経年で新規不純物が2量体に化学変化を起こしていたのです。

4.問題を防ぐには
注射剤の原薬の銘柄追加や製造方法変更時は、安定性試験(加速と長期)をできるだけ行うことが防止策になります。

5.終わりに
発生している異物を正しく取り出すことが基本です。
そのためには、アンプルやバイアルを直接実態顕微鏡で見て該当する異物の大きさの測定と形をデッサンします。
その後、異物をフィルター上に取り出し(ろ過し)、顕微鏡で同じ異物だったかを確認します。
実体顕微鏡での非破壊での異物の大きさ測定は、最初は時間がかかりますが慣れると10分/1本くらいでできるようになります。
フィルター上の異物を測定台に移す時は、細い注射針(23G)の先を両面テープの粘着部分に擦り、それで異物をくっつけて行います。
異物はFT-IRの拡散反射測定(有機物)と電子顕微鏡付X線マイクロアナライザー(無機物)で測定します。

戻る