不溶性微粒子の改善(添加物が原因)

注射剤の異物には、目視で見える異物を対象とした”不溶性異物試験”と小さな微粒子を対象とした”不溶詩微粒子試験”から構成しています。
日本で問題になるのは不溶性異物で、それによる製品の回収が時々あります。
不溶性微粒子でも問題がありましたので紹介します。

1.問題点(ろ過試験法)
日局の不溶性微粒子試験は基準をクリアしていましたが、フィルターにろ過して目で異物を確認する試験を実施したところ、
フィルター上に微粒が捕集され、フィルターの色が灰色に変わっていました。
顕微鏡で見ると多くの微粒子が捕集されていました。
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2.現地で調査
  海外の製造所を訪問して原因究明を行いました。
この製剤は粉末無菌充填製剤でした。
原薬と添加剤はアルギニンだけの製剤でした。
粉末無菌充填は、それぞれを別に溶解し、無菌ろ過後、水分を飛ばし無菌原料を得ます。
それを無菌下、混合し無菌充填します。
それぞれの無菌原料をサンプリングして溶解後フィルターを通しても、フィルター上には異物はありません。
それぞれの原料にはフィルター上に残る異物はありませんでした。
ところが、混合したものをフィルターにろ過すると同様にフィルター上に異物が捕集されました。
この時点では製造段階からの混入の可能性もありました。

3.試験室で再現
試験室で原薬を溶解しフィルターを通して水を飛ばしました。同様にアルギニンについても行いました。
混合して溶解しフィルターを通すと同じようにフィルターに異物が捕集されました。
製造工程からの混入は否定されました。
何故、異物のない原薬とアルギニンを混ぜで異物が生じるのか?

4.仮説の設定と検証
原因がわかりません。いろいろと考えました。
一つ思いついたのが、原薬は酸性、アルギニンは塩基性アミノ酸なので、
ここの原料をフィルターで無菌にした時と混合した時のpHが異なっているとのことでした。
仮説は”pHが異なったことで、異物が出た”です。
アルギニンを溶かしフィルターを通して水を飛ばします。
それをもう一度溶かして、塩酸でpHを原薬を混合した時と同じにし、フィルターを通しました。
フィルター上には同じような異物が残っていました。
同じことを、原薬で行いましたが、フィルター上には異物は残りませんでした。
アルギニンにpH変動で不溶性の異物があったことがわかりました。

5.銘柄変更
アルギニンには、2社の銘柄がありました。
さっそく、2社の銘柄を確認しました。異物が出たのが1社だけでした。もう一つの会社には出ていませんでした。
異物が出た銘柄がコストも安く多く使われていました

6.改善と歯止め
異物が出ない銘柄に限定しました。原因究明が改善と歯止めにも繋がりました

7.終わりに
いろいろ考え、仮説を立て、調査を行ったり、追試を行い、上手く行かないと再度仮説を立てることでした。
「仮説思考」 内田和成著 この本は仮説を立てて仕事を進めることが問題解決を早めることを伝えています。

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