注射剤の異物は目で見える異物(不溶性異物)の大きさと、目には見えない異物(不溶性微粒子)の数の両面から確認します。
不溶性微粒子は日本薬局方(JP)の基準が緩いため、これで問題になることはほとんどありません。
また、不溶性微粒子は設計段階の経年試験でもわかるため、実際の製品で問題になることはまずないかと思います。
一方、不溶性異物は製造段階で突発的に入ってくるため、その対応が重要になります。
特に海外の製造所では、不溶性異物の基準が緩いため、というより、海外の人はそのような異物が見えない、
特に問題視しないので、日本で販売する時は問題になります。実際、不溶性異物のために製品回収が多くありました。
この不溶性異物の改善をするためには、客観的な不溶性異物試験を確立する必要があります。
評価が正しくないと改善効果も正しく評価できません。客観的な物差しがあって初めて実情を知ることができます。
不溶性異物;
データが客観性を持ちにくい理由として下記が上げられます。
・人が観察するために人によるバラツキ
・大きな異物は突発的に入るので、サンプル数が多く必要
・サンプリング時に異物で汚染させてしまい、正しくサンプリングできていない
人のバラツキを少なくするためには、方法や観察時間を一定にすること。人の教育訓練を行い、レベルを一定以上とすることです。
JPに定められている1,000Lxは観察には少し照度が不足しています。3,000Lx辺りが見やすいようです。
訓練を受けた検査者であれば、1分をかけて50μm(長径)の異物であれば、検出率は50%程度です。
よって、目視では5μm~50μmの異物の検出ができないので、補助装置を使って見ることで、その大きさの異物を見ることができます。
バイアル瓶の下から数万Lxの光を当てます。バイアル瓶は高速回転することにより、気泡を除きます。
この補助装置を活用することで、目視だけのバラツキを小さくすることができます。
この補助装置を使った見方も時間と方法を規定し、観察者の教育訓練が必要です。
サンプル数は液量にも左右されますが、バイアル瓶であれば10本ほどが最低量かと思います。
信頼性を高めるなら50本ほどが必要かと思います。
サンプリング容器の洗浄度の確認、サンプリングする時の汚染排除などがあります。
不溶性異物のJPの基準は、ある一定以下の大きさの異物は許容しているということです。
多くの方が異物をまったくないとだめだと勘違いしている方がいらっしゃいます。
不溶性微粒子;
JPでは顕微鏡法と装置(光遮蔽)を使った二つが記載されています。装置で行うのが簡便です。
ただ、光遮蔽は面積からサイズの大きさを算出するため、この装置は数を確認しているものです。
製造段階よりも経年での増加がないかがキーポイントになります。
1.異物の同定時の注意事項;
容器中の異物の同定する場合、単純にフィルターにろ過する場合がありますが、それはとてもリスクを持った方法です。
目的をした異物ではなく、違う異物(操作中からの汚染も含め)を取り出してしまう場合が多くあります。
異物を同定するのであれば、非破壊の段階で、実態顕微鏡で異物の大きさと形状を確認して、
フィルターにろ過後、顕微鏡で同じ大きさの異物を探して、非破壊時のものと同じものを見つけなければなりません。
異物は一つだけでなく、できれば3~5つほど代表する異物を同定することがよいかと思います。
2.非破壊で異物の大きさと形状の測定;
実態顕微鏡あるいは、マイクロスコープでバイアル瓶(またはアンプル)の外から異物を見つけます。
異物は動いていないととても発見が難しいです。バイアル瓶を回転しないように台に置き、
縦に少し揺らすことで、異物が動きます。その動きを捉えて見つけます。
バイアルの下に1mmの方眼紙を置くことと接岸レンズのスケールを入れることで大きさを測ることができます。
この方法は慣れるまでは数時間かかりますが、慣れると5分くらいで目的とする異物を見つけることができます。
3.異物の元素分析;
電子顕微鏡に付けたX線マイクロアナライザーで異物の同定は可能です。
測定するためのカーボン台に異物を移し替えること、台の上で異物が動かないことが重要です。
カーボン台には両面テープを貼り付けます。実態顕微鏡下で、23G位の注射針で異物を移し替えます。
針の金属に異物は付着しませんが、両面テープの粘着部分を針でこするとわずかに粘着成分が移行し、針に異物を付けることができます。
4.余談;
ある製造所での不溶性異物試験の失敗では、JPの不溶性異物試験では人が見るのでわかり難いと判断し、
バイアル瓶を開封し、フィルター上にろ過した異物を顕微鏡で観察し、50μm以上あると不適としていました。
ここでの間違いは、JPの試験方法を理解していない。
バイアル瓶の開封時に異物汚染させていたなどです。そのため何度やっても試験が適合せず、造るロット造るロットが不適になっていました。