アルツハイマーと宣告されて あなた/私はどうするか

アルツハイマーと宣告されて あなた/私はどうするか
精神の反抗力と運命/喪のロゴセラピー 3


オーストラリア人のクリスティーヌ・ボーデンという女性は、非常に有能な政府の科学研究顧問の一人として第一線で働いていました。
誰もが彼女の記憶力のよさと頭の回転の速さに感嘆して、首相をはじめ、
政府の高官たちとの意見の調整や話し合いには、そのまとめ役として活躍していました。
ところが、彼女が49歳の時にアルツハイマーだという診断を受けました。
医者から自分の脳がもうかなり侵されているという事実を聞かされたとき、彼女のショックは大変なものでした。
今まで積み上げてきたことがいったい何のためだったのか、「なぜ」こんなことになってしまったのだろう、と悩む日々が続きました。
言ってみれば、彼女のキャリアウーマンとしての過去はまったく無駄なものとして消失してしまったわけです。
他の人ならそこで精神的に挫折してしまうところですが、
ボーデンはその苦しみの中で、過酷な現実の中に与えらえた役割を見つけようとします。

「自分にこのようなことが起こったのは、何かの意味があるに違いない」という根源的な信頼ががそこにあったのです。
そして、彼女は本を書き始めました。
それまで、アルツハイマー患者を介護する立場からいろいろな書物が出ていましたが、患者自身が書いたものはほとんどなかったのです。
それで彼女は患者としてこの病気について書くことを自分の役割だと考えました。
この衝撃的な出来事について、自分の抱いている不安、シングルマザーとして3人の娘たちの養育をこれからどうしていくかという問題、
そしてアルツハイマー患者としてとして自分がどのような障害をもっていると自覚できるか、患者として周囲からどのように扱ってほしいか、
この苦痛を乗り超えるためにどこから力をもらっているかなど、自分の能力でできる限りの範囲で書き始めたのです。
邦訳「私は誰になってゆくの?」。

そしてそれが出版されたときには、
「自分もアルツハイマーで悩んでいる、でもこの本を読んでとても勇気をもつことができた」
というような反響がたくさんありました。
それで、彼女はあちこちから依頼を受けて講演をするようになりました。
一時やめていた車の運転も再開しました。医者は彼女の脳の侵され方が非常にゆっくりなったことに驚きました。

戻(エッセイ)る  戻る(ロゴセラピー)