リスクの観点の査察ポイント
査察は時間が限られているので、どこに重点を置いて行うかである。
医薬品の製造所は管轄の都道府県、場合によっては医薬品医療機器機構(PMDA)がGMPの査察を行っている。
同じことを繰り返し行うことは無駄なので、製品回収のリスクに関することを行うのも一つの選択肢である。
また、幾つかの質問をすることで、その製造所の品質保証のレベルを知ることができる。

1.表示ミス
1)表示資材の校了ミスについては、“知&リンク集”の表示の校閲/校了(表示ミスをなくす)をご参照ください。
2)表示資材が貼付されない、異種の表示資材が混入を防ぐには。
・表示資材メーカーのミスを防ぐ
 ・その資材にバーコードが印刷されている場合は、バーコードで管理する。
 ・バーコードがないものについては、資材メーカーの管理を確認する。
 ・ロールラベルで印刷汚れがあるとそれを剥がし、別のラベルを貼付している場合がある。
 それを禁止するか、あるいは、管理を徹底する。
 ・ロールラベルについては、計数管理をするために、裏面に通しのバックNoを記録する。
 ・ロールラベルは繋ぎをする場合があり、バーコードが入っていないものは、繋ぎをする時の管理を徹底する。
  繋ぎの回数を限定して製造段階で確認する方法もある。
・製造メーカーでの管理
 ・バーコードが入っているものは、ラインで全数バーコードの確認を行う。
 ・計数管理を行う。査察時に計数管理のシートを確認する。時々、廃棄枚数などをきちんと管理せずに、
 引き算で数合わせをしている会社もあるので要注意である。
 廃棄ラベルの確認を複数で行っているか、廃棄ラベル台紙を用いて管理しているかを確認する。
  廃棄ラベルも台紙に貼付しておくと、後日数のトーレーサビリティができる。
 ・表示資材の保管については、定められた人だけがアクセスできるようにする。
 ・残った表示資材の返還時にトラブルが起きやすい。製造現場での保管、返却については、仕組みを確認する。
 ・特にラベルのミスが多いので要注意である。
 ・捺印では、捺印数と出来高を一致させているかどうか。
 ・ライントラブル時、捺印無しのものがラインで発生しているかを確認する。
 発生した時の処理を確認する。系外排出品の処理SOPがあるかを確認する。
 ・廃棄品、手直し品の置場が決まっているか、その場所は離れているか。
 置場または容器には廃棄品(または不良品)などの名前が記載されているかを確認する。
 ・捺印無し品については、ラインから取り出す時に、解体するか廃棄するようにする。

2.溶出試験 経年品で規格外
1)品質再評価により、多くの固形製剤に溶出試験が設定された。
 開発当初は溶出試験を考慮した製剤設計になっていないため、経年での溶出試験の不適合が起きる可能性は高い。
 かつ、試験方法の回転数が基本50回転と低回転数であるため、ちょっとした製剤の変化を溶出試験はもろに受けやすい。
2)原薬の(銘柄、製造場所、製造方法などの)変更、製剤の(製造場所、製造方法、添加剤などの)変更、
 逸脱の影響などにより、経年で溶出試験の不適合が起こる可能性があり、
 それを事前に防ぐにはきちんとした変更管理、データの確認、高度な判断などが必要になる。
3)査察では逸脱で溶出試験に影響するようなものがなかったか、
 上記の変更管理がきちんとされ判断されているかどうかを確認する。

3.毛髪
  1)毛髪の対策をどのように行っているかを確認する
 ・服装規定、・入退室の毛髪対策、・全数選別有無、・系外排出品の確認、 
2)毛髪脱落防止には毎日の洗髪が一番効果がある。次にはブラッシングで抜けやすいものは除く。
3)床の毛髪数の確認。
4)作業着の付着を取る粘着ローラーまたはバキューム設置。
5)直接製剤に接するときはゴーグルなどで完全に覆っているか。
6)全数選別時、毛髪が発見されたら逸脱報告を出しているか。
7)全数選別時、ビデオ選抜の時には系外排出品の一部を目視で毛髪混入の製剤があるかどうかを確認しているか。
8)原料のし過を行っているか。し過した時の異物を確認しているか。
9)原料メーカーの毛髪管理状況を確認しているか。
10)受け入れ試験で異物試験を行っているか。

  4.虫
1)防虫管理を行っているか。
2)虫のモニターを毎月行っているか。
3)補虫係数を管理しているか。補虫係数は0.1以下か。
4)虫を発見した時は、逸脱報告を出しているか。
5)原料メーカーの防虫管理状況を確認しているか。
6)虫のモニター結果を工場長まで上げているか。

5.製造販売承認書との齟齬
1)改正薬事法になり、製造販売承認書には製造場所、詳細な製造方法(医療用医薬品)が記載されている。
 そのため、それとの齟齬が違反になり、製品回収に繋がるリスクがある。
2)改正薬事法が施工後は暫くは、製造販売承認書との齟齬での製品回収はなかった。
 その後、改正薬事法施工後に変更管理され、その変更が軽微変更の範囲内でなく、一部変更申請内容であり、
 それが製造販売承認書に記載されていない場合は製品回収になっている場合が何件か出てきた。
3)GMP適合性調査で問題が指摘されても、製品回収まではなかったが、
 韓国の原薬メーカーのGMP適合性調査結果でGMPの問題が見つかり、
 その原薬を使っている日本の製造販売業者に改善指導、あるいは、製剤の製品回収を指示している。
 日本は医薬品の回収は当局の指導であるが、自主回収という立場で行っている。
4)査察時には、製造販売承認書との齟齬がないかをSOPや製造場所、原薬メーカーの記録で確認する。
5)変更管理を確認する。軽微変更、一部変更申請に繋がるものがなかったかを確認する。

  6.異種品混入
1)バーコード管理、計数管理、ラインクリアランス、洗浄バリデーションが重要になる。
2)原薬のクロスコンタミ、洗浄バリデーションが重要になる。
3)ラインで異種品が発見された時は逸脱報告がだされているかを確認する。
4)異種品があった場合、ビデオ選別機で検出できるかを確認しているか。
5)清掃に圧縮空気を使っているか確認する。使っていると、思いもかけないところに製剤が飛んでいる可能性がある。
6)ラインだけでなく、容器や設備、布なども異種品混入の原因になる。

7.注射剤の不溶性異物
“知とリンク集”の“注射剤の不溶性異物対策”参照のこと。

8.ピンホール
1)アルミピロー、PTPのピンホールについては、製剤の品質に影響する場合があり、バリデーションには注意が必要である。
 資材は何個取りかによって、それぞれが微妙に違い、キャップと、容器、アタッチメントの組み合わせもあり、全ての組み合わせを確認する必要がある。
2)ラインでのピンホール検査は抜き取り試験であるため、バリデーション並びに、温度設定がより重要になる。
3)カートンには通しNoなどを付け、問題あった時は、後でトレースして問題があった範囲が試験できるようになっているか。
4)コールドホーム(両面アルミ)のピンホールの確認をラインでどのように行っているかを確認する。

9.欠錠
1)包装ラインにPTP充填時に欠錠センサーがあるかを確認する。
2)ボトルの計数をどのように行っているかを確認する。
3)過去に逸脱があったか、対策をどうしたかを確認する。

10.金属
1)ラインに徐鉄器、金属センサーがあるか。
2)粉の段階、成形後の両方に設置しているか。
3)全数選別の系外排出品に金属が混入がないか確認しているか。
 

戻る