「愛着障害 子どもの時代を引きずる人々」 岡田尊司著 ”自分の安全基地を持つ”

親が求めるがゆえに
 愛着を脅かす、もう一つの深刻な状況は、守ってくれるはずの親から虐待を受け、安全が脅かされるという場合である。
 この場合、子どもは親を求めつつ、同時に恐れるというアンビバレントな状況におかれる。
 しかも、親がいつ暴力や言葉による虐待を加えてくるかわからないといった状況は、子どもにとって予測も対処も困難である。
 ただ「自分は無力で悪い存在だ」という罪の意識や自己否定気持ちを抱えさせられてしまう。
 親に認められたいという気持ちは、それがほどよく満たされた状態で成長していけば、大人になるころには、自然と消えていく。
 しかし、その思いを満たされずに育った人は、いくつになっても、
 心の奥底で「親に認められたい」「愛されたい」という思いを引きずることになる。
 親に過度に気に入られるようとしたり、逆に親を困らせたりすると形で、こだわり続ける。

安全基地と探索行動
 愛着の絆が形成されると、子どもは母親といることに安心感をもつだけでなく、母親がそばにいなくても次第に安心していられるようになる。
 安定した愛着が生まれることは、その子の安全が保証され、安心感が守られるということでもある。
 子どもは、愛着という安全基地がちゃんと確保されているとき、安心して外界を冒険しようという気持ちをもつことができる。
 逆に、母親との愛着が不安定で、安全基地として十分機能していないとき、子どもは安心して探索行動を行うことができない。
 その結果、知的興味や対人関係においても、無関心になったり消極的になったりしやすい守られていると感じている子どもほど、
 好奇心旺盛で活発に行動し、何事にも積極的なのである。

子どもの四つの愛着パターン
1)安定型
2)回避型
母親から引き離されても無反応で、また、母親と再開しても目を合わせなず、自分から抱かれようともしない。
安全基地をもたないため、ストレスを感じても、愛着行動を起こさないタイプ。
3)抵抗/両価型
母親から離されると激しく泣いて強い不安を示すのに、母親が再び現れて抱こうとしても拒んだり嫌がったりする。
しかし、いったんくっつくと、なかなか離れようとしない。
母親の安全基地としての機能が十分でないために、愛着行動が過剰に引き起こされていると考えられる。
4)混乱型
回避型と抵抗型が入り混じった、一貫性のない無秩序な行動パターンを示すのが特徴である。
まったく無反応かと思うと、激しく泣いたり怒りを表したりする。
また、肩を丸めるなど親からの攻撃を恐れているような反応をみせたり、逆に親を突然叩いたりすることもある。

支配的コントロール:
 暴力や心理的優越によって、相手を思い通りに動かそうとするものである。
従属的コントロール;

 相手の意に従い恭順することで、相手の愛顧を得ようとする戦略
操作的コントロール
 支配的コントロールと従属的コントロールが、より巧妙に組み合わさったもので、相手に強い心理的衝撃を与え、
 同情や共感や反発を引き起こすことによって、相手を思い通りに動かそうとするものである。

愛着障害を抱えていたミヒャエル・エンデの母親
「はてしない物語」「モモ」などの名作で知られるドイツの作家エンデは不安定な愛着を抱え、それを克服した人でもある。
その愛着の不安定さの源はおそらく母親が抱えていたと思われる。
彼女が生まれて4か月の時に父親が溶鉱炉の中に落ちて亡くなった。
母親も彼女が3歳版のときに病気で亡くなり、遺された彼女は孤児院に送られそこで育った。
中原中也、川端康成、ヘミングウェイ、エリクソン、夏目漱石、太宰治、谷崎潤一郎、三島由紀夫なども愛着障害だったのではないかと。

母親のうつや病気も影響する
不安定型愛着の原因として、近年注目されているのは、子どもが幼いころに、母親がうつになるなどして、母親としての役割を果たせなくなることである。
うつだけでなく、境界性パーソナリティ障害、アルコール・薬物依存症、統合失調症などの精神疾患は、愛着に影響が生じやすい。

安定した愛着障害で育つと
 相手とやり取りするなかで、相手の気持ちを考えて、譲歩したり、気持ちを切り替えたりするということを学んでいる。
 そんな柔軟性は、安心できる愛着という柔らかな環境があって初めて発達する能力なのである。

不安定な愛着障害で育つと
子どもは、そうした柔らかさを身に付けられず、自分にこだわることで、自分を保とうとする。
親が不安定な愛着スタイルのもち主の場合には、親自身も柔軟性を欠き、
子どもに対して無理強いや支配的な対応になりがちなため、子どもも同じようなスタイルを身に付けやすい。

道化という関わり方
不安定型愛着の人は、しばしば三枚目やオッチョコチョイや道化役を演じることで、周囲から「面白い人」「楽しい人」として受け入れられようとする。

回避型愛着スタイル

親密さよりも距離を求める
 距離をおいた対人関係を好む。親しい関係や情緒的な共有を心地よいとは感じず、むしろ重荷に感じやすい。
 だから、親密さを回避しようとし、心理的にも物理的にも、距離をおこうとする。

何に対しても醒めている
 本気で熱くなるということが少ない。情動的な強い感情を抑えるのが得意で、それにとらわれることもない。
 クールでドライな印象を与えることも多いが、そうすることで傷つくことから自分を守っているとも言える。

回避型の恋愛、愛情
 どろどろしたものを嫌う、淡白なところがあり、相手との絆を何としても守ろうとする意志や力に乏しい。
 川端康成「愛の道は忘却という一筋しかあり得ぬ」と。

パートナーの痛みに無頓着
 自分が困っているときや苦痛を感じているときにも、平然としているばかりで、
 真剣に気づかってくれたり、痛みを一緒に感じてくれる様子が、あまりみられないからである。

不安定型愛着スタイル
なぜ、あの人は、気がかりつかうのか
 始終周囲に気をつかっている人がいる。プライベートはもちろん、
 仕事の場でも、相手の顔色を見ながら機嫌をうかがったり、馬鹿丁寧にあいさつばかりする。
 そのとき、少しでも相手の反応が悪かったりすると、嫌われているのではないかと不安になって、肝心の仕事どころではなくなってしまう。
 この過剰な気づかいこそが、愛着不安の表れなのだ。そして、気づかいばかりが空回りするのが、不安定型愛着スタイルの人の特徴でもある。

拒絶や見捨てられることを逃れる
 「愛されたい」「受け入れたい」「認めてもらいたい」という気持ちが非常に強い。
 対人関係で何が一番大事かと問われると、愛情や思いやりの大切さを強調する。
 そのため、拒絶されたり、見捨てられることに対して、極めて敏感である。
 少しでも相手が拒否や否定の素振りをみせたりすると、激しい不安にとらわれ、それに対して過剰な反応をしてしまいやすい。
 拒絶されるかもしれないという考えが頭に忍び込むと、その不安をなかなか消し去ることとができない。
 そのため、何度も相手に確認しようとすることもある。相手の顔色をうかがい、それに合わせて行動するということにもなりがちだ。

すぐに恋愛モードになりやすい
 愛着対象に接近し関わりをもつことで、愛情や安心を手に入れようとするものである。

良い安全基地とは?
1)安全感を保証する
2)感受性、何を感じ何を求めているかを共感する
3)応答性、相手が求めているときに応じる
4)安定性、一貫した対応をとる
5)何でも話せる

愛着の傷を修復する
未解決の傷を癒す
 幼いころに不足していたものを取り戻す
幼いころの不足を取り戻す
 ある意味、赤ん坊のころからやり直すことである。

役割と責任を持つ
社会的、職業的役割の重要性
 社会的、職業的を果たすなかで、対人関係の経験を積み、ほどよく親しい関係を増やしていくこてや、
 愛着不安や愛着回避の克服にまととない訓練の機会になる。

否定的認知を脱する
 否定的認知にとらわれやすいことが挙げられる。否定的な認知を脱するということが、非常に重要になる。
 否定的認知を脱するには、「全か無か」といった二分法的な認知ではなく、清濁併せ呑んだ、統合的な認知がもてるようになることである。

自分が自分の「親」になる
 愛着障害を克服するための究極の方法は、「自分が自分の親になる」といいうことである。
ある女性は、大学生のとき、何かに躓くととたんに自己嫌悪にとらわれ、落ち込んでしまう自分に気づいた。
「なぜ、私はこんなにすぐ自分を否定してしまうのだろうか」と考え続けた末にたどり着いた結論は、
親からいつも否定された虐待されて育ったことにあるのではないか、ということだった。
 親に期待するから裏切られてしまうのだ。親に認められたいと思うから、親に否定されることをつらく感じてしまうのだ。
 もうこれから親に左右されるのはやめよう。あの人たちを親と思うのはやめよう。その代わりに、自分が自分の親になるのだ。
 自分が親として自分にどうアドバイスするかを考え、「自分の中の親」と相談しながら生きて行こう。実際、その方法は、非常にうまくいった。
 エリクソンが行ったのも、まさにこれであった。
 養父からもらった名前をミドルネームにして、自分でエリクソンと名前を付けた。エリクソンとはエリクのソン(息子)という意味を含んでいる。

愛着障害を克服した人は、特有のオーラや輝きを放っている。その輝きは、悲しみを愛する喜びに変えてきたゆえの輝きであり強さに思える。
そこに至るまでは容易な道のりではないが、試みる価値の十分ある道のりなのである。

感想;
この本は自分のことを考えるのにとても参考になりました。
”愛着障害”との言葉は、あるセミナーで始めて知り、そしてこの本を知りました。
自分を知ることで、自分を上手くコントロールできるのではないでしょうか。


戻る