「脳には妙なクセがある」 池谷裕二著 "他人の不幸を気持ちよく感じてしまう脳"

他人の不幸を気持ちよく感じてしまう脳
 平均年齢22歳の男女19人に参加して貰い、かっての同窓生たちが社会的に成功して羨ましいシーンを想像して貰ったら、前帯状皮質が活動することがわかった。
 やはり不安と妬みは似た感情なのです。「その羨むべき同窓生が、不慮の事故や相方の浮気などで不幸に陥った」ことを知ったときの脳の活動を記録したのです。
 相手が失脚しているわけですから、前帯状皮質がもはや活動しなくなっているのは予想通りですが、興味深いことに、
 前帯状皮質の代わりに、「側座核」が活動を始めたのです。側座核は快感を生みだす脳部位で、いわゆる「報酬系」です。心地よいと感じているのでしょう。
 興味深いことに、前帯状皮質の活動の強かった人ほど、側座核の活動が強かったのです。

恋をすると脳の処理能力が上がる!?
 20歳前後の女性36人に、画面に表示される単語が英語かどうかを見分けて貰うというものです。
 単語の表示時間は26/1000秒という一瞬、本人には何も表示されたようには感じられません。
 いつ単語が表示されたかはわからないので、表示された合図によって知らせます。
 意識にも上がらない刺激ですので、正答率は高くありません。
 次に、単語を表示する直前(0.15秒前)に、その女性が恋している男性の名前を26/1000秒だけ表示して見せたのです。
 やはり一瞬なので恋人の名前が表示されたことは気付きません。
 にもかかわらず、恋人の名前が出た時には単語判断に要する判断が0.03秒ほど速くなったのです。これは統計学的に有意な差です。
 ちなみに友人の名前を使った場合には効果がなかったいいます。
 興味深いことに、恋人の名前が画面にサブリミナル表示されると、「紡錘状回」や「角回」といった大脳皮質領域に加えて、やる気やモチベーションに関わる脳深部が活性化します。
 愛情が強いほど強く活性化しました。どうやら「恋愛」は計りしれないパワーを秘めているようです。
 こう考えると、恋人たちがお互いの写真を携帯電話の待ち受け画面や財布に忍ばせているというお約束の行為も、それなりに意味のあることなのかもしれません。

コーヒー豆の香りを嗅ぐとどうなるか
 コーヒー豆の香りを嗅ぐと、なんと、他人に対して親切になるのです。
 多くの買い物客が賑わう大型ショッピングモールで、炒ったコーヒー豆や焼いたパンの香りが漂っていると見知らぬ人が、
 落としたペンを拾ってくれたり、両替を快く引き受けたりする確率が高くなることを証明しました。

パソコンのモニタ画面を赤色にすると仕事の能率が低下する
 どうやら、赤色は士気を奪ってしまうようです。逆に相手に使うと無意識のうちに威嚇し、優位に立ちやすい状況を作るのではないかと推測する。
 ボクシングのグローブの赤色は相手がより目にします。
 オリンピック大会でボクシングやレスリングあどの試合を調べたところ、やはり赤サイドの方が青サイドよりも10〜20%勝率が高いことが報告されています。

ビタミン剤を飲むと犯罪が減る!?
 イギリスのある刑務所に実験協力を依頼して、囚人232名の実験参加者を得ました。
 参加者の半分には栄養サプリメントの錠剤を与え、残り半分には外見がそっくりな栄養素がふくまれていない偽の錠剤、いわゆるプラセボを与えました。
 その結果、栄養サプリメントを与えられた方は暴力行為がプラセボを与えられた方に比べて、暴力行為が35%も減ることがわかりました。

「老ける」とは夢を持てなくなったこと?
 海馬が衰えると、鮮やかに未来を描くことができません。たしかに夢に目を輝かせている人はいつまでも若々しいものです。

「身体が痛むとき」と「心が痛むとき」
 三人でバレーボールの練習をします。
 ゲームに参加した被験者ははじめは皆でボールを回しながら楽しんでいますが、あるとき、相手の二人にボールを回して貰えなくなります。
 目の前で二人だけで遊んでいる、そう、除け者にされたのです。
 グループからの孤立、社会からの孤立、心の痛む瞬間です。
 仲間はずれにされたとき、大脳皮質の一部である「前帯状皮質」が活動することがわかりました。
 検査の後、本人に「どれほど疎外感を覚えたか」と訊ねたところ、前帯状皮質の活動が強かった人ほど、強い孤立を感じていました。
 前帯状皮質は身体の「痛み」の嫌悪感に関係する部位です。
 つまり、手足などの身体が痛むときに活動する脳部位が、心が痛むときにも活動したというわけです。

何事も始めたら半分は終了!?  笑顔に似た表情を作るだけで愉快な気分になることが実験で証明されています。
 笑うから楽しい。笑顔という表情の出力を通じて、その行動結果に見合った心理状態を脳が生みだすのです。
 眠いから寝るよりも、「就寝時間になったから寝る」のではないでしょうか。
 身体を寝るのにふさわしい状況(お布団に入る、電気を消すなど)つまり、
 就寝の姿勢(出力=行動)を作ることで、それに見合った内面(感情や感覚)が形成されるわけです。
 会議中や授業中に眠くなるのも、静かに座っている姿勢が休息の姿勢でもあるからだといえます。あくまでも身体がトリガーです。
 「やる気」も同様です。やる気が出たからやるというより、やり始めるとやる気が出るというケースが多くあります。
 身体運動を伴うとニューロンが10倍強く活動することがネズミの実験で出ています。

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