本の紹介&感想

「人に必要とされる会社をつくる」 松浦信男著


「人に必要とされる会社をつくる」 松浦信男著
阪神・淡路大震災の絶望を乗り越えて学んだ「本当に強い経営」
阪神・淡路大震災のことをそれまであまり言わなかったのは、お涙頂戴と捉われてしまう。
私もそうなったらそうしますよと言われることがあったので控えるようになったそうです。
しかし、「ガンブリア宮殿」出演し、村上龍氏から、「君が本当に言いたいことを言うべきだ。君にしか言えないことがあるだろう?」
と何度も励ましてくれた。それが力となり今回本を出版した。

  阪神・淡路大震災で万協製薬の工場が倒壊しました。
それまでは、お客様は1社だけの製品を受託していました(現在約70社)。
そこで、その会社に支援をお願いに上がったら、相手先の事情もあったのですが、支援を断れたました。
強く印象に残っている言葉は「万協製薬さんが潰れても誰も困らない」でした。
お客様、社会に必要な会社になろう。1社だけだとリスクが高いので、多くの会社さんと取引をしようと決意されました。

工場が崩壊し、後片付けしようと思い、社員が当然一緒にやってくれると思っていたら、社員の協力が得られなかったそうです。
当時は社員にとっても万協製薬は必要な存在ではなかったのでした。
この苦い体験が社員を大切にする、社員がイキイキと働く会社にしようとの強い思いになりました。

操業再開しようにも工場が崩壊しています。最初に行ったことは社員全員の解雇でした。辛い作業でした。
幸い製造設備は壊れていなかったので、別の会社の製造所の場所を借りてそこで生産できるようにしました。
その会社とは最初は上手く行っていましたが、その後難題を突き付けられ、
その難題がある期日までに工場を立てなければ、万協製薬の唯一の製品の製造販売承認書を返して貰えないとの宣告でした。

三重県の山の中にある工場の競売物件に出会い、そこを購入したのが今のところに工場が移った理由です。
幸い、三重県は製薬産業を導入したいとの県の方針も幸いしました。
大震災から始まり、多くの不幸もありましたが、幸福なこともありました。
それはあらたな人との出会いで助けられたことが多くあったそうです。

地域のボランティア活動に参加、地域の高校生と共同して高校生スキンケアシリーズの開発、
経営品質賞を4度受賞、社員が提案し社内で認められると海外旅行10万円支援/1人(帰国後に10分ほど報告するなど)、
大人の読書感想文(1回/3か月)では課題図書を決めて社員がA4用紙1枚に「気づいたこと」を提出するなど、
次から次へと新しい試みをされました。そこには社員と一緒に、社員に必要とされる、お客様に必要とされる、
社会に必要とされる会社を目指して取り組んで来られた結果のように思います。

前に勤めていた会社が、万協製薬さんに軟膏をお願いする話があり、2度ほどGMP査察を行ったことがあります。
三重に移られてまだ少ししか経過していない時期でした。何て山奥なのだろうと思いました。
査察では多くのことを指摘させていただきました。その指摘に対して真摯に対応をされました。
残念ながら、別の問題が生じたために製品の販売までは行きませんでした。

ビックサイトでのファーマっテック・ジャッパンで万協製薬さんが展示されていたので、懐かしくなりそのブースに寄りました。
偶然当時お会いした社長がいらっしゃって覚えていてくださりました。
社長の書かれた本が置かれていたので、いただけるのか尋ねましたところ、サインまでしてくださりました。
当時、そのような思いで工場を移設されたとは思いもしませんでした。
優しそうな感じ、それが少し頼りなさそうな印象で、でも精一杯取り組まれていることは感じました。
約18年振りの再開でした。受けた印象ではとても精悍なイキイキとされたイメージで自信にあふれていました。
同じ人なのかと思うくらいでした。多くの取り組みが成果を出し、自信になったのだと本を読み納得しました。

ロゴセラピー(「夜と霧」の著者ヴィクトル・フランクルが始めた療法)では、
自分が人生の意味を見出すのではなく、人生の方から自分に問うてくると考えます。
まさに、阪神・淡路大震災が、「さあどうするのか?」と問うて来たのでしょう。
そこには、万協製薬は必要ない、社会に必要ないと断言されたことへの口惜しさがエネルギーとなり、
社会に見返してやるのだとの強い気持ちで始まりました。
しかし、その見返してやるとの気持ちが、いろいろな取り組みを行う中で自然と弱くなり、
社員に必要な会社、お客様に必要な会社、社会に必要な会社でありたいと素直な気持ちに置き換わって行ったそうです。
それはいろいろな人との繋がりの中で醸成されたようです。
万協製薬は要らないと断言された1社との取引先や工場を立てないと製品を返してくれないと宣告された会社とも、
その後良い関係に修復出来たそうです。

この本は、「道がないと思っても、何とかしたいとの強い思いがあれば、道は見つかり、
その熱意で助けてくれる人も現れ、女神も微笑むことがある実践例」のように思いました。
女神の微笑み注)に出会うには努力を尽くしている人に限られるようです。

注)「運を育てる―肝心なのは負けたあと」米長邦雄著

戻る